日記。

日々の徒然を書き留めてます。

インド旅行3-6

3/4(土)13:30〜
1日分で何回分けるの!?海外旅行するだけでこんなに書けるものがあるのかよ。それともインドだから?なんか後者な気がするな。
出発までまだまだ時間があるので散策。ここはどこ?誰か住んでるの?と僕の質問に丁寧に返すカーン。悲しいかな、僕の耳が英語に慣れてないおかげで、このピンク色の建物がサイ・ババと関係があることしか聞き取れなかった。f:id:gaku-diary:20230314055322j:image
旅程の終盤でお土産をまとめ買いする予定だったが、ここで何も買わないと申し訳ない気がしたので、僕は「お土産にチャイを持って帰りたい」と言った。『ああ、それなら』と、カーンは迷いのない足取りでずんずん歩き出した。
着いた先は小さなお店。中に入るとたくさんのスパイスが混ざった香りが鼻を突いた。基本的に、僕が訪れたインド各所はどこもスパイスの香りがうっすらしていたが、この場所は特に濃い。発生源か?ってくらい。見渡すと壁一面に瓶詰めされたスパイスが保蔵されていた。そうか、僕はてっきりチャイ屋に連れてこられたと思ってたけどここはスパイス屋さんだ!おじいちゃん店主が『こちらへどうぞ』と、店の一番奥にあるソファに促す。家主みたいに座るカーンの横でちょこんと腰をおろした。続いて何やら会話をするカーンと店主。聞くと、なんとチャイづくりを実演してくれるという。いそいそとガスボンベと鍋、紙コップを用意し、お湯を沸かす店主。おおお・・・感激。沸騰したお湯に粉ミルクを入れ、即席ホットミルクができた。その後は残り少量となったお湯の中へマサラチャイを溶かし、スパイスが入らないように小さなザルで濾しながら、やや高いところから紙コップへ注いで完成。良く知る香りが部屋に充満した。一口飲む。んん?昨日デリーで飲んだやつとはだいぶ違うぞ?目が合うと店主は『いいか青年!インド人はメニーメニーシュガーが大好きなんだぜ!』と言い、今度はスプーン大盛りの砂糖を1杯、2杯、3杯と小さな紙コップへ注いだ。うげ!こんなに入れるのか!驚愕しつつも飲んでみると、う〜ん甘い、美味い。やはりこの味だ。いや、デリーで飲んだやつとはまた少し違う。どうやら家庭によって入れるスパイスの配合や種類が違ってくるらしい。一家に一味ってことかあ。美味しかったのでチャイはここで買うことにした。作り方も教えてもらったし、日本でもこの味を体験できるのは楽しみだ。いつか自分でもマサラチャイを作ろうと思い、入っているスパイスの種類を教えてもらった。続いて比率を聞いたら、それはシークレットなんだと。インド人の矜持はスパイスにあり、か。f:id:gaku-diary:20230314055532j:image
満足してお店を出ようとすると、小さなショーケースに数々のアクセサリーが並べられているのに気付いた。素通りしようと思ったが、彼女の顔がふいに頭に浮かんだ。そういえばタージマハルで買ったネックレスは最終的に100ルピーで買える代物だったなああ・・・おのれ。半ばリベンジのつもりで、ここで本物のネックレスを買うことにした。多種多様な宝石を半目で眺めた。普段は日本でもこういった場所で立ち止まらないから新鮮だった。ただ、僕にはてんで何が良い品物なのか分からない。そこで直感に頼ることにした。似合いそうなやつ、似合いそうなやつ・・・と。悩みに悩み抜いた末、小さな紺色の石が付いたネックレスを選んだ。途中、僕が選んだものが実に良いモノかを実演するために、店主が石の裏でショーケースの縁をこすり始めた。『いいか青年!この石はダイヤモンドの次に硬いんだぜ!』ギュリギュリギュリギュリ!いや、普通に耳が痛え!額に汗を浮かべる店主と、ボロボロと粉が出てくるショーケース。おいおい大丈夫か?覗くと、なんと宝石は無傷。「すご!もし彼女が銃で打たれてもこれ付けてれば平気だね!」そう言うとおっさん2人がのけぞって笑いだした。おおお。笑いのタイミングというか、対おっさんとの会話の仕方が日本と同じで済むのに驚いた。ちなみに宝石の名前はスターサファイア。値段はまあまあしたがそのぶん信頼度も増すってもんよ(危険)。
続いて。こちらが特に何も言うことなく次の行き先は決まっていたようだ。黙って付いていくと今度は大理石店だった。タージマハルが近くにあるから関連のお店があってもおかしくない。土煙が舞い野良犬が闊歩するここアーグラで、この場所だけが東京銀座を思わせるブルジョア感。清潔な店内に綺羅びやかな大理石の製品。お客さんはちらほらいたが全員白人だった。まずい、ここで買い物したら金が一瞬で飛んじまう!「ちょっとカーン、俺ここで何も買うつもりないけどいいの?」『いいぞ。見学だけだ』家主の如く適当なソファでくつろぐカーンに対し、僕は少々居心地が良くなかった。間髪入れずにオジさんが僕らに話しかけてきた(会話中の英語はうろ覚え)。『Are you from?』「Japan!」『Oh, I lived in japan. where?』「Do you know 〇〇 prefecture?」『What!? I lived in 〇〇!』「Really!? where?」『△△-shi』「いやそこ俺が今住んでるところォ!!」驚いた。日本から遠く離れたこの地に同郷の人がいたとは・・・。『あ。僕全然日本語話せるよ』先に言え。その後はカーンを置き去りに日本語で会話。よく知る地名やスーパーが出てくる出てくる。その人はここの社長らしく、直々に大理石の加工方法や装飾の仕方、値段の決まり方を教えてもらった。んで、当然のごとく営業トークが始まった。こちらが買うと言っていないのに『特別に値下げするよ!』とか言ってくる。やれやれ、何も買わないって言ってるのに・・・・・・
しばらく経って店を出る。気付いたら1.2万円のスターサファイアと、10万円の大理石の台を買っていた。悔いはない。六角形型の大理石のほうは直径が60cmくらいしてまあ大きい。郵送で送ると言われたときは緊張が走ったが、信用してもらおうと社長が個人の名刺と店の名刺をくれたり、レシートにハンコ押したり、買った大理石には僕の名前を書いたり(買ったものと送られたものが違わないための印として)、あらゆる方法をもって信頼性を高めてくれた。また、次はバラナシに行くと言ったら注気をつけるべきことを延々と聞かされた。なんか、ここまでしてくれたなら仮に騙されてもいいや、という気持ちになってきた。亡くなった祖父も似たようなことを言っていたな。もういいじゃねえか騙されたならそれはそれで、って。おかしいことを言うようだが、買うまでの中で既に元はとった気がするのだ。
その後はサリー屋に連れて行かれたり(何も買ってない)、地球の歩き方にも名前が載っている日本語ペラペラのガイドを紹介してもらって時を過ごした。カーンは、僕が何も買わなくても圧を一切与えてこなかった。本当に、至れり尽くせりだ。
あっという間に発車の時間。タージマハルから帰ったときはどうやって時間を潰そうか時計をチラチラ見てたけど、カーンに会ってからは発車時刻まで間に合うか焦りをもって時計を確認していた。散々断られたが無理やり1000ルピーを握らせた。本当に善意を感じたら金なんかこっちから出すわ。
駅のホーム。「Thank you dad.」『Thank you, my son.』「I shall return...!(必ず戻ってくる)」これは極東司令官マッカーサーが太平洋戦争中に放った一言だ。1回言ってみたかったんだよね。『君はマトゥラーという場所を知っているかね?隣の駅にあるんだが、私はそこに住んでいるから今度来たらインドの家庭料理を食べさせてあげよう』「後で調べてみる。ありがとう・・・!涙」実は今日の午前中そこにいたんだよな、ワシ。別れの言葉の後、僕はカーンと涙の熱い抱擁を交わした。本当に泣きそうになっていたが、ふと顔を上げると一緒に写真を撮られたがっているインド人たちが列をなしているのを見て涙が引っ込んだ。多分この光景が珍しかったのだろう。写真を撮っている間に、少し遅れて列車が到着。ついにお別れのときだ。再び熱い抱擁。ともかく、会えて良かった。これ以外の感想はない。家族の話、インドの話、宗教・生き方の話。初対面のはずなのに、会話するだけで温かみを感じられる人だった。カーンにとっては単なる休日の暇つぶしだったかもしれないが、こんな、どこの馬の骨かもわからない外国人のために動いてくれて、善意しか感じられなくて、まるで本当の親父みたいで、ちょっと日本が恋しくなってきたときに・・・
『ヌア、ア、ァ』
その時、ボロボロの服を着た知らないおじさんがヌッと現れ、”両手指のない手”を見せつけながら何かを訴えかけてきた。いやお前、今それやめろよ。扉が閉まる。あっ、ちょっ。「カーーーーーーン!!!」

ー完ー