日記。

日々の徒然を書き留めてます。

食べる。

1/7(日)

僕の数ある関心ごとのひとつに"動物との関わり"という項目がある。子供の頃から動物が好きだったこともあり、殊に人間とその他動物の関わりに意識が向くことが多々あった。幸いにも鹿児島のド田舎に住んでいる父方の祖父は自宅で鶏を飼っており、その場で潰してご馳走してくれたのもあって、死ぬまでにやることリストに【・肉を食べる全工程を遂行する】が入ることとなった。

実は4年前にやらせてくれと頼んだことがあるが、肝心な〆る(喉を掻っ切る)作業をしたのは祖父だった。僕は最初から最後までやりたかったのでその場で意を唱えたが、無視された。f:id:gaku-diary:20240109145827j:image

時は来たれり。今回こそはと、〆る作業は僕がやることを入念に話していざ出陣。小さな鶏小屋に入り、頃合いの雌鶏に狙いを定めた。だがいざ捕まえようとすると逃げられる。確かにこの時僕はビビっていたと思う。これから殺す相手を捕まえるんだ。精神的負荷が重くのしかかった。だがしかし、ひき腰になっては一生肉は食えない。えいやっ!と首根っこを掴むと鶏は羽をバタつかせ、他の者たちもそれに共鳴したかのように暴れた。「足を持てぃ!」と祖父。久しぶりに会った時は杖をついて弱々しくなっていたが、この時ばかりは気迫が感じられた。僕はなんとか足を掴みぶら下げることに成功。鶏はあっさりと大人しくなった。

鶏の足にロープを結び、家の裏のフェンスから下げた。さあ、いよいよ包丁で喉を掻っ切る時だ。と、思ったのも束の間。「どれ。」と祖父があっさりとその工程を済ましてしまった。あっけに取られる僕。まさに、まさにその工程こそ心残りであったのに。少々面食らってしまったが時間は巻き戻せない。パックリ割れた気管が剥き出しになった喉と、口から、蛇口を緩くひねったように血が出ている。目をかっ開き、時折バタバタともがいていたがそれもすぐに止んだ。

まずは大きなタライに鶏の死体を置き、上から熱湯を浴びせる。最初は羽毛が水を弾くが、何回か裏返しているうちにある程度お湯が浸透するようになった。その後は祖父と羽をむしり続ける。首付近の羽をむしった時に喉の傷口から白い気管と固まった血がくっきりと見えた。

くちばしの先にある鼻に針金をひっかけ、バーナーで表皮を炙る。皮膚が収縮し、内部の水分がパチパチと蒸発する音が聞こえた。焼き鳥屋の匂いがあたりに蔓延し、目の前の鶏が一気に"肉"になった。その後はひたすら骨を意識しながら解体作業。包丁だけでなく、時には指、斧を使ったため、手首付近まで脂でヌルヌルになった。まだほんのり温かい内臓の奥に指を入れ、飛び出た腱の端っこを奥歯で引っ張り胸肉を剥離させる。血と脂にまみれながら、あらゆる手段を用いて肉を分解した。ふと、曇り空の隙間から太陽が近くの山を照らした。肉から顔を離し、寒風を肺いっぱいに吸い込む。これが土地に生きる人間の景色なのだと思った。f:id:gaku-diary:20240109150120j:image
f:id:gaku-diary:20240109150116j:image

夜、さっそく鳥刺しにしていただいた。市販のものと違い形も不恰好で、ところどころに黄色い脂も付着している。しかし、これがまた本当に美味かった。調理の難しい骨付きの部分は出汁にしてスープにし、臓物も足も、可食部はできるだけ平らげた。夜も更け祖父と一緒に芋焼酎を飲みながら、再度〆る工程について話したが、これまた無視されてしまった。f:id:gaku-diary:20240109150136j:image
f:id:gaku-diary:20240109150132j:image