鰐と古本屋
5/15(日)
何気なしに、帰り道にある古本屋へ立ち寄った。この店は俺が小学生の頃からあるが一回も入ったことはない。正確に言うと今いる町に引っ越してきたのが小学生の時だから、実際は数十年前からそこにあるのだろう(後で聞いた話、母親が小学生の頃に既にあったらしい)。駅前の通りにある店は数ヶ月単位でオープンとクローズを繰り返しているのに対し、横にそれた線路沿いにあるこの店はずっと変わらずここにある。ただ、ずっとそこにあったはずなのに意識したことが全くなかったのだ。
線路に面したうるせえ立地と、一人暮らし大学生のキッチンより狭いその店には数千冊はあろう本が詰め込まれている。平日午前8時の埼京線なんか風通し良すぎるよ。
勇気を出して初入店。影の薄い根暗なクラスメイトに初めて話しかける気分だな。山積みになった本の隙間から80歳くらいの店主がお化けを見るような目で俺を見た。いや客やぞ客。客を見て驚くな。古本屋の店主ほど何考えてるか分からない人はいない。
全くどれどれ。本棚を眺める。古本屋にある本というのは戦前生まれの著者がソ連崩壊前に出版した物がほとんどだ。そのため社会学系の本は読みが外れてるものがあるので面白い。それっぽい本はどこかな、、と思って物色していたが(実際は狭いのでくるくる回るだけ)お目当てのジャンルは見つからない。代わりに官能小説とか性風俗関連の本がやたら目立っていた。親父お前、、!!彼は話しかけたら面白いタイプのクラスメイトだった。
15分くらい本棚を眺めて、一冊手に取る。題名は「よりよい夜ばなし○ため息と悶えのメニュー」出版年1972年。値段も見ずに買えるのが古本屋のいいところだよな。
「これお願いします」
「ん、、、720円」
高えよ。何でよく分からんジジイが書いたエロ日記に720円も払わにゃならんのだ。裏表紙を見ると"定価380円"と書いてある。おのれ、さすがに負けてもらおう、、その瞬間である。店主がワニに見えた。平時は動かずエネルギーを節約し、獲物が来た時だけ全力で呑み込もうとするあの獰猛な大型爬虫類がそこにいた。ぐぬぬ、、、しぶしぶ720円を出す。
いつかあの古本屋で値切りしよう。そして官能小説を数冊買おう。そう心に決めタバコに火をつけた。今度は食われないからな。